23:45分のはなし
奇跡を飼い慣らしきれずに9日目
惰性で回る世界とそこに住む住民たち
大多数から一人を見つけたとき
ぼくのなかの序列は変わる 変わる
奇跡につまずいて1週間と2日目
いつか起こりうることは明日起こってもおかしくない
左目の奥で腰の曲がった思い出たちが語る
きみの見る世界は平常運転だろう
コマ送りに進む日常を タイヤの取れかけた自転車ではしる
荷台には物悲しげな自尊心としわくちゃの五千円札
心臓から生まれたアレは言葉になるのを拒み
愛想笑いだって悪かないぜと消化不良の笑み
どこにだって行ける気はしたけど
どこに行きたいのかは知らない
今日はよく眠れるだろう枕元には通知オフの携帯電話
そして奇跡を咀嚼すること10日目の朝を迎えることになる
奇跡から当たり前になるとき
ぼくの恋は終わりさ
きみ中心であることで
拝啓 ありがとうへ。
いつか会いたい、会いたいと願うばかりでなかなかその理由が見つからないまま莫大な時間が過ぎていきましたね。しかし、すがた形が変わりながらも互いの意義は変わらずここまでこれたのは君と遠くも、ある意味では近い存在だったからかもしれません。
夜と朝、白と黒、表と裏、君と私。対比であるこれらは真反対であると同時にセットでもあるのです。球体の上では離れて行けば行くほど、ある所を境に近付いていくのです。
しかし、自分で言うのもなんなのですが、最近は自分の方が目立ちすぎなのかなと思います。あなたがもっと目立ちあなたで溢れる世界である方がいいはずなのです。私は、より良い世界の、あなた中心で廻る世界のほんの一部分でいいのです。
あなたの世界で私はヒールを演じる。
ごめんねより。
四角の周りを三角でー、
冬、陽が長くなってきた頃に寒波はくる
日照時間と気温は必ず比例するものではないらしい
冬、そうすると食べたくなるのはやはり鍋
人参もいれて色をつけることも忘れない
冬、鍋をつついていると弾む会話
ノロケ話もほどほどに許す
冬、遅刻の常習犯はいつでもあいつ
でも一番楽しみにしているのを知っている
冬、一つだけ埋まらないところが具材置き場
僕らはいつでも一つ足りない
春、また一人出て行く
止めるすべを僕らは知らない
あるとかないとか
もっぱらホットコーヒーの季節になった。
コーヒーは好きなのは好きだが夏場でもホットを飲むほど通でもない。(アイスコーヒーは日本発祥だと聞いたことがあるが定かではない)
いつからこんなにも普及したのかいささか謎ではあるがコンビニコーヒーが主流になりつつある現状だ。缶コーヒーは嫌だが喫茶店にはいって一息つくほどの時間はない、という効率性を求めた結果できた実に日本人らしく素晴らしい機械だ。実際に味も喫茶店と遜色ないと思う(私はお吸い物とお湯の味の違いが分からないぐらいには味覚音痴だ)
つい先日のことだが、車内に飲み終わった某コンビニのインスタントコーヒーの飲みガラが窓際のドリンクホルダーに凛々しく所在無さげに立っていた。朝方だったせいでもあるし視力が悪くなってきたせいでもあるのだが、私は飲み口の紅に気付くのが遅れた。
弱々しくではあったがソレはソコに張り付いていた。バケツの水に落ちた一滴の血のようにすぐに溶けて無くなってしまう、そんな危うさの中にその紅はあった。
朝の寒さも相まってか、「ソコに誰かが存在していた」という事実が何故か心を軽くし、カーテンから漏れる陽の光に暖められた床のようにポカポカと冷えた心をあたためた。
しかし、「今はもう誰もいない」という事実があるのも確かだった。実際にぬくもった心を冷やすには十分すぎる事実と弱々しい紅だった。
このような「ある・ない」が同時に襲ってくる感覚は日常に溢れていると思う。
朝起きて鼻をつく鍋の匂いに、友人と騒いでいた昨日があり、今はいないという現実を思うだろう。
久しぶりに乗った自転車に、何度も転んで乗れるようになった過去があり、今はただ乗らなくなった現在を思い膝の傷跡を愛でるだろう。
ふらりと立ち寄った古本屋で、表紙の傷にその本を読んでいた頃の娘の世界が生まれ、表紙の傷の深さに今は亡き娘の世界を見るのだろう。
様々な思いや出来事、モノ、現実があり、日に日に思い出や、神話、過去となって美化されていく。しかもそれは月日が経てば経つほどに美しく、洗練され、尊いものになる。(飲み屋の酔っ払いの昔話を除く)
冷えた指先を温めるため110円で缶コーヒーを買った。